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「日射遮蔽・日射取得」って何?無料の太陽を活かす、夏涼しく冬暖かい家の設計術

家づくりを考え始めると、「日射遮蔽(にっしゃしゃへい)」や「日射取得(にっしゃしゅとく)」といった、少し聞き慣れない言葉に出会いませんか?

「夏は涼しく、冬は暖かく過ごしたい」と、誰もが願いますが、

「夏の涼しさを優先すると、冬は寒々しい家にならない?」

「逆に、冬の暖かさを求めて日当たりを良くすると、夏は蒸し風呂のような家になってしまう?」

と心配になる方もいるのではないでしょうか。

実は、一年を通して本当に快適な家にするには、後付けの製品に頼るのではなく、家づくりの基本となる「設計」の段階で、この二つのバランスを両立させることにあります。

この記事では、岐阜の地で高性能なパッシブデザイン住宅を手掛ける私たちエムズアソシエイツが、日射遮蔽と日射取得の基本から、設計によってそれらを両立させる具体的な方法まで、プロの視点から分かりやすく解説します。

この記事を読めば、こんな疑問が解決します!
  • そもそも日射遮蔽と日射取得って何が違うの?
  • 夏も冬も快適な家にするには、どうすれば両立できるの?
  • 窓やブラインドだけじゃダメなの?設計で何ができるの?

読み終える頃には、年中快適な家づくりの本質がきっと理解できるはずです。

この記事を書いた人
松原 保嗣

プロフィール:
岐阜市拠点の株式会社エムズアソシエイツ代表取締役。20年以上、注文住宅の設計施工に携わり、高気密・高断熱住宅やパッシブデザインを取り入れた設計を通して、圧倒的な快適住空間を提供。自社ブログや年間100回以上のセミナー登壇を通じ、延べ500名以上の施主の家づくりを支援し、施主啓発にも努める。
保有資格:
日本エネルギーパス診断士、省エネ建築診断士、気密測定技能者、地盤インスペクター、福祉住環境コーディネーター2級、福祉用具専門相談員

日射遮蔽と日射取得とは?まずは基本を解説

家づくりにおいて、太陽の光、すなわち「日射」の扱いは、住み心地を大きく左右する重要なポイントです。

季節によって快適さをもたらす一方、不快の原因にもなる太陽の光。

その光を巧みに操る基本的な考え方が「日射遮蔽」と「日射取得」です。

それぞれの言葉の意味と役割を理解していきましょう。

夏の涼しさを生む「日射遮蔽」は”日差しをさえぎる”工夫

日射遮蔽とは、その名の通り、夏などの強い日差しが室内に直接入り込まないようにさえぎる工夫のことです。

夏の住宅における日射遮蔽の図解。高い角度の太陽光を軒(ひさし)で遮り、室内が暑くなるのを防いでいる様子。

主な目的は、夏の厳しい日差しが原因で室温が上昇するのを防ぎ、冷房の使い過ぎを抑えることです。

窓から入る日射熱は、夏の室内を暑くする最大の原因とも言われています。

窓から侵入する熱を建物の外側で効果的にブロックすることが、室内を涼しく保ち、省エネで快適な暮らしに繋がります。

また、近年の高断熱住宅では、夏だけでなく春や秋でも日差しが強い日には室温が上がりすぎてしまう「オーバーヒート」という現象が起こりえます。

家の断熱性能が高いがゆえに、一度入った太陽の熱が外に逃げにくくなるのです。

こうした意図しない室温の上昇を抑えるためにも、日射遮蔽の設計は年間を通して重要になります。

冬の暖かさを生む「日射取得」は”自然の恵みをとりこむ”工夫

一方、日射取得は、太陽のエネルギーを室内に積極的に”とりこむ”工夫を指します。

冬の住宅における日射取得の図解。低い角度の太陽光が窓から室内深くまで差し込み、部屋を暖めている様子。

特に、太陽の高度が低くなる冬場に、南向きの窓から暖かい日差しをたくさん取り入れることが目的です。

「太陽を無料の暖房として使う」とイメージすると分かりやすいかもしれません。

LIXILのシミュレーションによれば、南向きの大きな窓(高性能なもの)からは、電気ストーブ約3台分に相当する3,000Wもの熱エネルギーを取り込むことができるとされています。

出典:「LIXIL

この自然の恵みを最大限に活用することで、厳しい冬でも暖房だけに頼らず、明るく暖かい室内環境を保つことができるのです。

ただし、これには一つ注意点があります。

せっかく日中に太陽の熱を取り込んでも、家の断熱性能が低いと、夜の間にどんどん熱が逃げてしまい、かえって寒くなってしまう「放射冷却」のリスクもあるのです。

なぜ「両立」が重要?夏と冬で変わる太陽との付き合い方

夏の太陽光と冬の太陽光の窓からの入り方を示したイラスト。夏は日射しを遮り、冬は日射しを取り込むパッシブ設計とその地域の風向きを考慮した位置に窓を配置する事で風の通り道をつくります。

 

「夏は日差しを遮り、冬は日差しを取り入れる」

ここまで読んで、この二つが全く逆の働きをすることにお気づきでしょう。

そして、この正反対の要求をどちらも満たすことこそが、一年中快適な家づくりには欠かせません。

例えば、冬の暖かさだけを考えて日射取得を優先しすぎると、夏には強すぎる日差しが室内に入り込み、”オーブントースター”のような灼熱の家になってしまいます。

逆に、夏の日射遮蔽ばかりを重視すると、冬には貴重な太陽の暖かさを取り込めず、一日中暖房が必要な、寒々しい家になりかねません。

どちらか一方に偏るのではなく、日本の四季の変化に合わせて、太陽の光を自在にコントロールする。

これこそが、設計段階で「日射遮蔽」と「日射取得」の両立を考えるべき、最大の理由なのです。

【結論】日射遮蔽と取得の両立は”設計”でこそ実現できる

「日射遮蔽と日射取得の両立が大切なのは分かったけど、そんな都合の良いことができるの?」 そう思われるかもしれませんね。

答えは「YES」です。

そのためには、後付けの既製品に頼るよりも、家が建つ土地の条件や周辺環境を読み解き、一棟一棟に合わせたオーダーメイドの『設計』を行うことが、もっとも効果的で本質的な解決策となります。

私たちエムズアソシエイツが、パッシブデザインの家づくりで特に重視しているのが、以下の3つの設計手法です。

  1. 深い軒(のき)と庇(ひさし)の設計
  2. 窓の「仕様」の最適化
  3. 窓の「配置」の最適化
  4. 太陽高度と真北の把握

太陽の動きや性質を正しく理解し、建築の工夫と組み合わせる、パッシブ設計による手法です。

1. 軒(のき)と庇(ひさし)で、夏と冬の日差しを自然にコントロールする

もっとも基本的で、かつ効果的なのが「軒」と「庇」の設計です。

「軒」とは屋根の先端部分、「庇」は窓や出入り口の上に設けられる小さな屋根のことを指します。

これらを上手く設計することで、太陽の高さが違う夏と冬の日差しを、自然にコントロールできるのです。

  • 夏: 太陽は空の高い位置を通ります。 (70~80°)深く設計された軒や庇が、この高い角度からの強い直射日光を効果的に遮り、室内に熱が入るのを防ぎます。
  • 冬: 逆に、太陽は空の低い位置を通ります。 (31°~40°)そのため、夏の高い日差しを遮った軒や庇の下をくぐり抜けるように、暖かな日差しが部屋の奥まで届くのです。

このように、軒や庇の出の長さをその土地の緯度や周辺環境に合わせて緻密に計算・設計することで、「夏は日射を遮蔽し、冬は日射を取得する」という、理想的な状態を自然に作り出すことができます。

これは、季節ごとにシェードを出し入れするような手間もかからない、もっともシンプルで恒久的なパッシブデザインの手法です。

ポイント:太陽の高さのピークと、気温のピークは一致しない!
補足ですが、実は、太陽の高さのピークと、気温のピークは一致しません

  • 太陽の高さがピークになる日

    • 夏至: 6月21日頃(太陽高度 78°)

    • 冬至: 12月21日頃(太陽高度 31°)

  • 実際の気温がピークになる時期

    • 最高気温を記録する時期: 8月10日~20日頃

    • 最低気温を記録する時期: 1月20日(大寒)頃

この「約1ヶ月半のズレ」を考慮に入れて計算できると、さらに効果的です。

2. 窓の「仕様」を最適化し、方角に合わせて日射を調整する

次に大切なのが、窓そのものの性能、すなわち「仕様」の最適化です。

「どの方角にも同じ高性能な窓を付ければ良い」というわけではありません。

窓を設ける方角によって、日射を「遮る」べきか「入れる」べきか、その役割は全く異なるからです。

  • 日射を”取得”したい南面
    冬の貴重な日差しを最大限に取り込むため、日射熱取得率の高い(=太陽の熱を通しやすい)ガラスを選定します。 同時に、夜間に熱が逃げないよう、高い断熱性能を持つ樹脂サッシや高性能ガラスなどを組み合わせることが大切です。
    ただ、地域によっては、南の窓には高性能すぎるトリプルガラスを使うよりも、日射取得を優先したペアガラスを採用したほうが、エネルギー効率がよいとされる場合もあります。
  • 日射を”遮蔽”したい東西面・北面
    特に夏場の西日は非常に低い角度から差し込み、室温を急上昇させる大きな原因となります。 西日などが差し込む方角には、日射熱取得率の低い(=太陽の熱をカットする)ガラス、いわゆる「遮熱タイプ」のガラスを選びます。 これにより、不快な熱の侵入を効果的に防ぎます。

このように、建物の各方角が持つ特性を見極め、それぞれの役割に合わせて窓のガラスやサッシの種類を戦略的に使い分けること。

これも、快適性と省エネ性を両立させるための重要な設計技術です。

 

特に岐阜県(岐阜市)は、年間日照時間が2,000時間を超える全国でもトップクラスの日照的に有利な地です。

永久不変の無償で取得できるエネルギーを最大限生かさない手はありません。

地域の日照時間が少ない地域では、この限りではありませんので、地域の特性を把握しながら窓の設計を考える必要がありますね。

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3. 窓の「配置」を工夫し、日射量をコントロールする

最後に、窓を「どこに、どのような大きさで配置するか」という計画も、日射をコントロールする上で大切です。

例えば、冬の日差しを積極的に取り込みたい南面には、床まで届く大きな窓(掃き出し窓)を配置して、室内の奥まで太陽の暖かさを届けます。

逆に、夏に厳しい西日が入る西面や、朝日が入りすぎる東面は、窓を小さくしたり、高い位置に設けたりすることで、不要な熱の侵入を防ぎます。

窓は単なる「壁の穴」ではありません。

光と熱を巧みにコントロールするための、家づくりのもっとも重要なパーツなのです。

その配置を一つひとつ丁寧に計画することが、心地よい暮らしに繋がっていきます。

設計の効果を最大化する、パッシブデザインとの連携

日射のコントロールは、それ単体でも効果を発揮しますが、家全体の快適性を高める「パッシブデザイン」の他の要素と連携させることで、その効果を最大限に引き出すことができます。

ここでは、日射コントロールと連携させるべき3つの重要な要素をご紹介します。

連携①:高気密高断熱が大前提である理由

これまでお話ししてきた日射遮蔽・日射取得の設計効果を最大限に引き出すために、絶対に欠かせないのが、建物の「高断熱・高気密」性能です。

高気密高断熱が大前提である理由
  • 高断熱
    いくら冬に日射を取得して室内を暖めても、建物の断熱性能が低ければ、その熱は壁や窓からどんどん逃げてしまいます。 魔法瓶のように、外の気温の影響を受けにくくする高い断熱性能があってこそ、日射コントロールの効果が活きてきます。
  • 高気密
    建物の隙間を極力なくす「高気密」も同様に大切です。 隙間だらけの家では、せっかく暖めたり冷やしたりした空気が外に漏れ出し、エネルギーの無駄遣いになってしまいます。 気密性を高めることで、計画的な換気が可能になり、エネルギー効率を格段に高めることができます。

日射をコントロールする「設計」と、その効果をしっかり受け止める「高断熱・高気密」という器。

この二つが両輪となって初めて、本当に快適で省エネな住まいが実現するのです。

連携②:自然換気(風の通り道)との組み合わせ

私たちが目指すのは、単に高性能なだけの家ではありません。

夏や冬に窓を閉じて快適に過ごすのは基本性能。

その上で、春や秋といった心地よい季節には、窓を開けて自然の風を感じられる「風の通り道」を設計します。

季節の移ろいを楽しみ、一年を通して暮らしの質を高めること。

それこそがパッシブデザインの神髄です。

連携③:自然採光(明るさ)とのバランス

日射をコントロールすることは、室内の「明るさ」を調整することでもあります。

例えば、夏の日射を遮蔽するためにやみくもに窓を小さくしたり塞いだりすると、室内が暗くなり、日中でも照明が必要な居心地の悪い空間になりかねません。

高い位置に窓(高窓)を設けて安定した天空光を取り入れたり、吹き抜けを設けて家の奥まで光を届けたりと、日射熱は遮りつつも、心地よい明るさは確保する。

このバランスを考える視点が、快適な暮らしを実現する上でとても大切になります。

設計でここまで変わる。日射コントロール成功事例

理論や手法だけでなく、実際の設計で日射コントロールがどのように活かされているのか、シミュレーションや実例を通して見ていきましょう。

【シミュレーション】庇の設計が、夏と冬の日差しをコントロールする

エムズアソシエイツの設計において、夏の涼しさと冬の暖かさを両立させる上で特に重視しているのが「庇(ひさし)」の設計です。

太陽の高さは季節によって大きく変わります。

例えば岐阜市付近(北緯35度)では、太陽がもっとも高くなる夏至の南中高度は約78度、逆に最も低くなる冬至では約31度と、その差は50度近くにもなります。

この大きな角度差を利用し、窓の大きさや高さに合わせて庇の出の長さを緻密に設計することで、夏の高い日差しはしっかり遮り、冬の低い日差しは室内にたっぷり取り込む、という理想的な日射コントロールが可能になるのです。

設計段階では、CADシステムによる日照シミュレーションを行い、庇の効果を視覚的に検証します。

▼冬至(15時)のシミュレーション

冬至の日の15時。この時間でも日差しを取り込めています。

冬の午後遅い時間でも、暖かい日差しがリビングの奥までしっかり届いていることが確認できます。

 

▼夏至(12時)のシミュレーション

夏至の12時。日射は完全に軒でカット出来ています。

太陽がもっとも高い真夏の正午でも、計算された軒によって直射日光が完全にカットされています。

こうした設計が実際の住まいでどれほどの効果を生むのか、モデルハウスの測定データをご覧ください。

 

▼夏期室温測定データ(岐阜市での施工後の建物)

これは8月下旬の猛暑日の記録ですが、外気温が34.0℃に達した13時や15時でも、エアコンをOFFにしたLDKの室温は23.0℃~24.5℃と、驚くほど涼しく快適な環境が保たれています。

これは、日射遮蔽設計が効果的に機能している何よりの証拠です。

【事例1】犬山市I様邸:深い軒で、夏の日差しを遮る

南向きの敷地条件を活かし、夏の日射遮蔽対策として1階南面に深い軒を設置。

夏の涼しさを確保しながら、冬は暖かい光が差し込む快適なリビングを実現しました。

【事例2】岐阜市H様邸:1.8mの軒下空間で、日射遮蔽と利便性を両立

間口がコンパクトな住宅地でも、南面に約1.8mの軒下空間を設けることで、夏の日射を効果的に遮蔽。

この軒下空間は、玄関アプローチの雨除けとしても機能し、デザインと実用性を両立させています。

まとめ:設計次第で実現できる、夏涼しく冬暖かい家

ここまで、快適な家づくりに欠かせない「日射遮蔽」と「日射取得」について、その基本的な考え方から、両立を実現するための具体的な設計手法までを解説してきました。

夏の涼しさと冬の暖かさ。

この二つを高いレベルで両立させる鍵は、後付けの製品に頼るのではなく、その土地の角度や地域の太陽や風の動きを読み解き、一棟一棟に最適な答えを導き出す「設計」の力にあります。

  • 日射遮蔽と日射取得は、夏と冬を快適に過ごすための正反対の工夫
  • 季節に応じて太陽光をコントロールする「両立」が重要
  • 「軒・庇」「窓の仕様」「窓の配置」の3つの設計手法が基本
  • 設計効果を最大限に引き出すには、「高断熱・高気密」が大前提
 

私たちエムズアソシエイツは、今回ご紹介したようなパッシブデザインの考え方を大切に、一棟でも多くの「本当に快適な家」を岐阜の地に増やしていきたいと考えています。

「私たちの土地でも、そんな快適な家が建てられるのかな?」

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そう思われた方は、ぜひ一度、私たちの見学会や相談会に足を運んでみてください。

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