2025.11.08
許容応力度計算を構造計算担当がかんたん解説!実は最善の方法ではない?
投稿日:2025.11.08 最終更新日:2025.12.05
「同じ耐震等級3なのに、工務店によって強度が違うのはなぜ?」
「許容応力度計算って、そんなに重要なの?」
耐震性の仕組みや制度って、なんだか複雑で分かりにくいですよね。
実は、その性能差が生まれる最大の理由は、建築業界が長年抱えてきた「構造計算をしなくても家を建てられた」という、法的な”特例”の存在にあります。
この記事では、まず「仕様規定(壁量計算など)」「性能表示計算」「許容応力度計算」という3つの計算方法が、どの法律・制度に基づくものなのか、そして義務なのか任意なのかという制度上の枠組みを、一級建築士が分かりやすく解説します。
その上で、なぜ今まで構造計算が業界のスタンダードでなかったのかという歴史的背景から、2025年の法改正で家づくりがどう変わるのかまで、本質的な情報をお伝えします。
表面的な情報に惑わされず、ご家族の安全を守るための本質的な知識を手に入れてください。

【プロフィール】
岐阜県本巣市出身。株式会社エムズアソシエイツ 設計部所属。今までに500棟以上の住宅設計に従事。
お客様の理想を丁寧にくみ取り、高気密・高断熱住宅やパッシブデザインを取り入れた住まいを提案。
構造計算を自ら行う設計者として、デザインと性能の両立にこだわり、安心して長く暮らせる家づくりを追求している。
土地探しから設計・施工まで一貫して関わり、岐阜エリアで多くの施主の家づくりを支援。理論と感性の両面から“心地よい暮らし”を形にしている。
【保有資格】
二級建築士・気密測定技能者・BIS資格
【保有スキル】
構造計算(木造住宅構造設計)/高気密・高断熱設計/パッシブデザイン設計
目次
これから家を建てる多くの方が、「耐震等級3」という言葉を一つの目標にされるでしょう。
しかし、その耐震性能を確認する方法には、3つの異なる「制度上の枠組み」があります。
「仕様規定(壁量計算など)」「性能表示計算」「許容応力度計算」の3つです。
まずは、それぞれがどの法律・制度に基づくものなのか、義務なのか任意なのか、そしてなぜ「同じ耐震等級3」でも信頼性に差が生まれるのかを、制度的な背景から分かりやすく解説します。

それでは、3つの計算方法が、具体的にどの法律・制度のもとで位置づけられているのかを見ていきましょう。
仕様規定とは、建築基準法で定められた、すべての木造住宅が満たすべき最低限の基準です。
代表的なものが「壁量計算」ですが、他にも「四分割法(壁の配置バランス)」や「N値計算法(接合部の強度)」などが含まれます。
これらの簡易的な計算をクリアしていなければ、そもそも建築確認が下りず、家を建てることができません。
つまり、仕様規定は「義務」であり、これをおこなっていない工務店は存在しないはずです。
ただし、あくまで法律の最低基準であり、簡易的なチェックに留まります。
壁の「量」や配置の「バランス」は確認しますが、「基礎の強度」までは検証されません。
そのため、仕様規定(壁量計算など)だけでは、実際の地震に対する十分な安全性が担保されているとは言えません。
性能表示計算は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)に基づいて、住宅性能を「等級」で評価するための制度です。
私たちがよく目にする「耐震等級1〜3」は、この性能表示計算によって判定されます。
ここで重要なのは、性能表示計算は「任意」である点です。
建築基準法のような強制力はなく、施主が希望した場合のみ、第三者機関による評価を受けることになります。
そのため、「耐震等級3を取得している」と謳っている場合、それは性能表示計算をおこなっている証拠となります。
ただし、性能表示計算は仕様規定(壁量計算など)をベースとした簡易的な方法であり、建物を支える「基礎の強度」までは検証されていません。
許容応力度計算は、建築基準法の中でもっとも詳細な構造計算方法です。
本来、マンションやビルなどの大規模建築物では、この許容応力度計算が義務付けられています。
しかし、木造2階建て住宅(延床面積500㎡以下など)については、2025年3月までは「4号特例」により、許容応力度計算は「任意」でした。
つまり、法律上はやらなくても問題なかったのです。
現在は義務化されていますが、これについては、後ほど説明します。
許容応力度計算では、建物全体の部材(柱、梁、壁、基礎など)一つひとつに、地震や風によってどれくらいの力がかかるかを算出し、それぞれの部材がその力に耐えられるかを個別に検証します。
仕様規定(壁量計算など)や性能表示計算では検証されない「基礎の強度」や「建物全体のバランス」まで、科学的にチェックできる、もっとも信頼性の高い方法です。
なお、具体的な計算方法の違いについては、下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
注文住宅を計画中に、工務店から「許容応力度計算で耐震性を確認しています」と説明されても、「許容応力度計算って何?」と疑問を感じる方は多いでしょう。 実は、同じ「耐震等級3」でも、計算方法によって建物の安全性には大きな差があります。 家の耐震性をチェックする方法は、大きく分けて3つあります。 簡

ここで少し、言葉の整理をしておきましょう。
建築業界で、工務店などに「構造計算をしていますか?」と尋ねた場合、それは一般的に「許容応力度計算をしていますか?」という意味で受け取られます。
仕様規定(壁量計算など)は、あくまで建築基準法の簡易的なチェックであり、「構造計算」とは呼ばれません。
また、性能表示計算は、技術的には「構造計算の簡易版」と見ることもできますが、業界では「構造計算とは別枠」として扱われるのが通例です。
ここまでの解説で、すでにお気づきの方もいるかもしれません。
そうです。
「同じ耐震等級3」という評価でも、どの制度・計算方法で取得したかによって、その信頼性が全く違います。
性能表示計算(品確法)で取得した耐震等級3は、主に「壁の量と配置」を基準に評価されたものです。
一方、許容応力度計算(建築基準法の詳細規定)で取得した耐震等級3は、それに加えて「建物全体のバランス、部材一本一本の強度、そして基礎の強さ」まで、すべて科学的に検証されたものです。
つまり、同じ「耐震等級3」でも、許容応力度計算で取得した耐震等級3の方が、性能表示計算で取得した耐震等級3よりも、基礎の強度まで含めた総合的な安全性が高いといえます。

上記は単純化したイメージであり、建物の条件や設計内容によって変わります。
実は、どの計算方法を採用するかは、建物の規模よりも、それぞれの会社が「法律の義務」を超えて、どこまでを「標準仕様」と考えているかという、家づくりへの姿勢に大きく左右されます。
建築基準法の最低基準(仕様規定=壁量計算など)のみで済ませる会社。
品確法の性能表示制度を活用し、「耐震等級3」をアピールする会社。
そして、コストがかかっても、法律上は任意である許容応力度計算を実施する会社。
このように、どの計算方法を採用するかは各社の判断に委ねられていたため、安全性への考え方や家づくりの姿勢は各社違っていました。
もっとも信頼性が高いにもかかわらず、なぜ多くの木造住宅で許容応力度計算、ひいては構造計算そのものが避けられてきたのでしょうか。
その背景には、建築業界が長年抱えてきた、構造的な問題がありました。
一言でいえば、「やらなくても、家を建てられたから」です。
ここでは、その具体的な5つの理由を、業界の歴史的な背景から解説していきます。

構造計算が普及しなかった最大の理由は、「4号特例」という法律の存在です。
2025年3月まで、一般的な木造2階建て住宅(延床面積500㎡以下など)は「4号建築物」と呼ばれ、建築確認申請の際に、構造計算書の提出が免除されていました。
設計者が「安全性を確認しました」と書類に記載すれば、行政はその中身を詳しく審査することなく、建築を許可していたのです。
この「性善説」に基づいた特例があったため、多くの工務店は、あえてコストと手間のかかる構造計算をおこなわなくても、家を建てることができました。
これが、構造計算が業界のスタンダードにならなかった根本的な原因です。

日本の木造建築は、古くから大工の「勘と経験」によって支えられてきた歴史があります。
「この太さの柱なら大丈夫」「この場所に壁があれば倒れない」といった、長年の経験則が重視され、数式で安全性を証明するという文化が、なかなか根付きませんでした。
もちろん、熟練の職人が持つ知見は素晴らしいものですが、その技術は個人の感覚に依存するため、客観的な安全性の証明が難しいという側面もありました。

多くの工務店や設計事務所は、意匠設計(デザイン)が中心で、構造計算を専門とする設計者を社内に抱えていません。
構造設計は非常に専門性が高く、資格を持つ人材も限られています。
そのため、構造計算が必要な場合は、外部の構造設計事務所に依頼するのが一般的でした。
しかし、それは次の「コストと手間」の問題に直結します。

構造計算を外注すれば、当然コストがかかります。
専門のソフトウェア(数十万円)や構造設計者への外注費が必要です。
また、計算にも2〜3週間程度の時間が必要となり、全体の工期にも影響します。
施主から見ても、家の性能という「見えない部分」への追加コストは、なかなか理解されにくいものでした。
特に、価格競争が激しい住宅業界では、このコストと手間を省くことが、少しでも販売価格を抑えるための手段となっていたのです。

実は、構造計算をおこなうと、設計の自由度が一部制限されることがあります。
例えば、許容応力度計算では、耐力壁の配置バランスが厳しくチェックされるため、「大きな吹き抜け」や「壁一面の大開口」といった、デザイン性を重視したプランが実現しにくくなるケースがあります。
営業担当者からすれば、「構造計算をしない方が、お客様の要望を叶えやすく、売りやすい」という側面があったことも、普及を妨げた一因といえるでしょう。
これらの理由が複合的に絡み合い、多くの工務店にとって構造計算は、「あえてやる動機がない」ものだったのです。
より詳しい背景を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
家づくりを進める中で、工務店から「うちは耐震等級3相当です」という説明を受けたとき、「"相当"って何だろう?正式な等級3と何が違うんだろう」と思ったこと、ありませんか? この「相当」という言葉、実は工務店によって使う理由がさまざまです。 本当に施主様のために使っている場合もあれば、注意すべき【ウ
これまで見てきたように、多くの工務店が構造計算を避けてきた背景には、法律、文化、コスト、人材といった根深い問題がありました。
しかし、私たちエムズアソシエイツは、創業以来、その流れに逆行してきました。
なぜなら、ご家族の命と財産を守る住まいの安全は、何よりも優先されるべきだと考えているからです。

エムズアソシエイツでは、建物の規模やデザインにかかわらず、すべての住宅で許容応力度計算に基づいた耐震等級3相当の設計を標準仕様としています。
もちろん、これにかかる追加費用は一切いただいていません。
それは、構造計算が特別なオプションではなく、安全な家づくりに不可欠な「当たり前の工程」だと考えているからです。
「見えない部分」にこそ、しっかりとコストと手間をかける。
それが私たちの家づくりに対する誠実な姿勢です。

なぜ、追加費用なしで許容応力度計算が可能なのか。
その最大の理由は、社内に構造計算を専門とする設計者がいるからです。
外注に頼る必要がないため、コストを削減できます。
また、デザイン設計の担当者と構造設計の担当者が、常に隣で密に連携を取りながら設計を進められるため、こんなメリットも生まれます。
この一貫した体制こそが、エムズアソシエイツの品質を支える土台となっています。

私たちは、ただ許容応力度計算をおこなうだけではありません。
実は、この計算方法にも実務上のデメリットがあります。
計算の仕方によっては、金物が少なくなりすぎたり、梁が必要以上に大きくなったりするなど、不利になる項目も存在します。
そのため、簡易的な計算方法である「壁量計算」と許容応力計算を組み合わせて、双方の利点を活かした独自の計算方法を推奨しています。
これは自社で計算を実施するからこそわかる、私たち独自のノウハウと言えます。
詳しくは、のちほど改めて触れます。

これまで構造計算が避けられてきた背景を解説してきましたが、その状況は2025年4月、大きく変わりました。
建築基準法が改正され、住宅業界は大きな転換点を迎えたのです。
これまで「任意」だった構造計算が、「義務」になりました。
この法改正は、私たちの家づくりに、そして工務店選びに、どのような影響を与えているのでしょうか?
今回の法改正でもっとも大きな変更点は、「4号特例」が縮小・廃止されたことです。
これにより、これまで構造計算書の提出が免除されていた、一般的な木造2階建て住宅(新2号建築物)も、原則として構造計算をおこない、行政による審査を受けることが義務化されました。
つまり、2025年4月以降、すべての工務店が、構造計算への対応を避けては通れなくなったのです。
これは、日本の住宅の安全基準を底上げする、非常に重要な一歩といえます。
しかし、ここで一つの問題が起きています。
先ほどお伝えしたように、社内に構造計算の専門家を抱えている工務店は、業界全体で見ても非常に少ないのが現実です。
法改正後、多くの工務店は、外部の構造設計事務所に依頼せざるを得ない状況です。
その結果、以下のような問題が実際に起きています。
このような状況下で、エムズアソシエイツのように自社で構造計算を完結できる工務店は、大きな競争優位性を持っています。
法改正後の今、自社で構造計算をおこなえることのメリットは、さらに際立っています。
現在、工務店を選ぶ際には、「構造計算をどこで、誰が、どのようにおこなっているか」という点が、これまで以上に重要な判断基準となっています。
私たちエムズアソシエイツの耐震設計は、許容応力度計算による耐震等級3の確保で終わりではありません。
計算だけでは測れない、実際の地震に対する「粘り強さ」と「安心」を追求するため、さらに一歩踏み込んだ独自の工夫を標準仕様としています。

エムズでは、許容応力度計算と壁量計算をミックスした独自の計算方法を採用しています。
これは、許容応力度計算の良い点を取り入れつつ、精度と費用のバランスを考慮した方法で、許容応力度計算と同レベルの安全性を確保しながら、コストを抑えることに成功しています。
自社で構造計算を実施しているからこそ実現できる、柔軟な対応です。
具体的にどの項目をどう計算しているのか、なぜこの方法で同レベルの安全性を確保できるのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
注文住宅を計画中に、工務店から「許容応力度計算で耐震性を確認しています」と説明されても、「許容応力度計算って何?」と疑問を感じる方は多いでしょう。 実は、同じ「耐震等級3」でも、計算方法によって建物の安全性には大きな差があります。 家の耐震性をチェックする方法は、大きく分けて3つあります。 簡

さらに、計算では測りきれない「粘り強さ」を実現するため、以下のような独自の工夫も標準仕様としています
こういった見えない部分にも手間をかけています。
これらの独自の取り組みについて、詳しくは以下の記事で解説しています。
家づくりを進める中で、工務店から「うちは耐震等級3相当です」という説明を受けたとき、「"相当"って何だろう?正式な等級3と何が違うんだろう」と思ったこと、ありませんか? この「相当」という言葉、実は工務店によって使う理由がさまざまです。 本当に施主様のために使っている場合もあれば、注意すべき【ウ
この記事では、耐震性能を測る3つの計算方法の違いと、許容応力度計算がなぜもっとも信頼性が高いのかを解説してきました。
同じ「耐震等級3」という言葉でも、性能表示計算で取得したものと、許容応力度計算で取得したものでは、基礎を含む検証の深さが全く違います。
さらに、2025年4月の法改正で構造計算が義務化された今、自社で計算できる工務店とそうでない工務店の差は、コスト面でも納期面でも、これまで以上に大きくなっています。
エムズアソシエイツは、許容応力度計算を自社でおこない、制震ダンパーや偏心率管理といった+αの設計も標準仕様としています。 (※コスパモデルでは、オプションです)
ご家族の命と財産を何十年も守り続ける住まいだからこそ、表面的な等級だけではなく、「誰が、どのように安全性を確かめているのか」という本質を見極めてみてください。
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