Column
リノベーションでの気密・断熱工事が難しい理由とは!?
松原 保嗣
岐阜市拠点の株式会社エムズアソシエイツ代表取締役。20年以上、注文住宅の設計施工に携わり、高気密・高断熱住宅やパッシブデザインを取り入れた設計を通して、圧倒的な快適住空間を提供。自社ブログや年間100回以上のセミナー登壇を通じ、延べ500名以上の施主の家づくりを支援し、施主啓発にも努める。 保有資格: 日本エネルギーパス診断士、省エネ建築診断士、気密測定技能者、地盤インスペクター、福祉住環境コーディネーター2級、福祉用具専門相談員
リノベーションにおいては、断熱性や気密性を向上させるには、新築とは全く違う難しさがあります。
今回はなぜ、既存建物の性能向上させるのが難しいかを解説していきます。
1. 既存構造の制約
リノベーションでは既存の建物を活かすため、壁や屋根、床の構造が断熱・気密施工に最適でないケースがいたるところに存在します。
例えば、間取り変更をする場合に、取り払いたい柱や壁があるのだけど、構造上必要な柱や耐力壁の場合、取り払うことができない場合があります。
また、断熱材を施工するスペースが確保できなかったり、ノウハウがないと見つけられないような隠れた隙間が多数あります。
現在と昔の家の構造の組成の方法も違うところが多くあり、代表的なものでは、床の構造。
昔は根太組工法というものでしたが、現在では剛床工法といわれるものがほとんどです。

上記の写真が、根太工法と呼ばれる昔のつくりですが、赤丸の部分に隙間が生じてしまうのがわかります。

上の写真は現在のほとんどの住宅で採用されている剛床工法とよばれるもの。
違いが判るかと思いますが、現在の工法だけの知識では、こうした昔の工法によってできている隠れた隙間まで予測することができません。
こうした部分の断熱強化や気密性向上のための隙間を塞ぐ方法を熟知していないと、なかなか本当に快適な性能向上ができなくなります。
「断熱気密リノベできます」 「性能向上リフォームできます」とは口では簡単に言えますが、本当にこうした経験値やノウハウ、施工実績があるかどうか?
そこを見極めることがとても重要になります。
2. 断熱材の施工スペースが限られる
特に日本の古い住宅では、壁や天井の厚みが薄く、グラスウールや吹き付けウレタンなどの断熱材を十分に施工するスペースが確保できないことがあります。

上記写真のような「土壁」と呼ばれる壁構造は、昔のお住まいでは当たり前でした。
調湿作用があり、自然素材でもあるので良い面もありますが、断熱性能はほんのわずか。
しかも、この土壁のおかげで断熱材を壁の内部に充填することが難しいので、土壁を落とすのか?(解体処分費用がかかります)
どうやって断熱材をおさめていくのか?悩ましいところになります。
また、築年数が浅い住宅や、数年前に表面だけをリフォームをしたばかりで、性能向上していないために、寒い暑いに悩まされているお住まいも多く存在します。
そうした場合、壊すのはもったいない場合もあり、コストダウンの方法として、既存の壁や天井をそのまま生かしながら断熱を施工することもあります。

このように、既存住宅というのは築年数や大工さんや工法によって、ケースバイケースでつくりが違ってきます。
そのような場合でも、臨機応変にコストも考えた最適な断熱気密施工が求められるのも、難しいと言われる所以です。
3. 気密処理が困難
新築では、全ての部材を新しく組んでいくので、建材同士の継ぎ目や貫通部を事前に把握し、計画的に処理できますが、リノベーションでは既存の隠れた隙間や劣化に対応する必要があるため、気密テープやシーリング材の施工が非常に困難になります。
1.でも紹介した、根太工法の場合は床下と土台の隙間をどうやって塞ぎ、気密性と断熱性を向上させるかがカギとなります。
4. 予期せぬ劣化や不具合
ここがリノベやリフォーム工事の怖いところですが、壁をはがしてみたら、柱が腐っていたり、断熱材が想像以上に劣化していた、などの“想定外”が起こることも。
結果として、追加の補修や補強が必要になることもありますので、そのあたりをある程度事前に調査して把握することが必要となります。

小屋裏の木構造の含水率調査や柱や壁の傾きの調査

床下の状態に至るまで、事前の調査が肝要となります。

ある程度事前調査を行っておけば、工事を始めてからの思わぬ追加工事の費用をなくすことができます。
また耐震診断をする場合には、このような内部の構造の調査をするので、リノベやリフォームをする場合には、同時に耐震診断と耐震補強工事をするとより効率的になります。
5. 現場ごとの対応が必須
リノベーションは一棟一棟がオーダーメイドのようなもの。
標準化された手順ではなく、施工会社や大工さん、職人さんの経験やノウハウ、技術力が成功のための必須事項となります。
通常のリフォームを専業にしているような施工会社や、高気密高断熱の実績が乏しい建築会社に性能向上リノベやリフォームを依頼すると、リスクが高くなることを知っておいてください。
また、高気密高断熱を得意としている建築事業者さんでも、「新築だけ」を施工している場合は注意が必要です。
先述した通り、新築と既存住宅の改修工事は全く違う性質のものだと理解してください。
失敗しないためにも、必ず、実績やノウハウ、技術力、知識があるのかを事前に把握してから業者さん選びをしていただきたいと思います。
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